改めて、「愛する」って何だろう。〜朗読劇「私の頭の中の消しゴム」
2021年5月4日。午前11時。
緊張とワクワクの中、私はPC前にいた。
朗読劇「私の頭の中の消しゴム」を見るためだった。
大好きな中島ヨシキさんと、お芝居を見るのは初めての前島亜美さん回。
6月の現地の朗読のチケットを持っていたし、前日までどうしようかと思っていたものの、ラジオ「中島ヨ式」にてヨシキさんがこの作品についての想い、「見て欲しい」と言ってくれたことをきっかけに、チケットを買った。配信での朗読劇はどうしても集中を欠いてしまうため、どうも躊躇いがあったものの、ここまでヨシキさんを応援してきた1人の人間として、この話を聞いて、見ずにはいられなかった。
(無観客となる前の収録だったため、実際とは話が変わっている部分もあります。
中盤から話が変わっていますが、最後のおまけでもまたお話しているので、よければフルでどうぞ。真ん中はいつものようにくだらない楽しい話をしています)
結果として、見たのは正解だった。正解というか、この作品を見ようか悩んだ自分を責めたほどに心が揺り動かされた。集中が切れるどころか、2時間ひたすらに画面から目が離せなかった。時に辛くて、そらしたくなることもあったが、この作品とは向き合わなくてはならないと思って、耐えた。
終演は午後1時だったものの、ブワーーっと感想をひたすらに書いても、30分喋っても、今(午前1時)になっても、気持ちの奥底には解消しきれない気持ちがあって、どうしようもないこの気持ちを何とかしたくて、衝動のままにPCを再び立ち上げ、この文章を書いている。
あまりに有名な作品のため、内容は何となく知っていた。
1組の男女の話で、女性の方が若年性アルツハイマーによって、記憶が消えていってしまう話。
正直、この手の話は苦手だった。恋愛もの、病気の話。できることなら私が避けたかった部類の作品。だから見るのも躊躇いがあった。世に言う「良い話」は苦手だった。このブログや、Twitterを見ている方は、何となくお察し状態かもしれない。
そんなもの吹き飛ばすほど、ヨシキさんとあみたさん(前島さん)のお芝居にただただ引き込まれた120分だった。私の前には、「浩介」と「薫」がいた。この2人として生きたお2人がいた。
いろいろなところで発信しているものの集約として書いているため、もし私のいろいろを見て、聞いている方からすると、知ってるよ!ということもあるかもしれないが、以下はご容赦願いたい。また、感想を書くためネタバレがあることや、前述の通り、私はヨシキさんのファンのため、ヨシキさんの話が多くなることもご理解いただきたい。
今回、浩介の
「ひとりにしないでくれ……薫……」
のセリフが頭にこびりついて離れない。
病気がかなり進行し、薫が浩介をこれ以上傷付けまいと、自ら浩介のもとから去っていった後のシーンのセリフ。
最初は「自分は幸せになれない」と心を閉ざしていた浩介の心を薫が開いて、「ひとりじゃない」と教えてくれた。浩介は薫との時間は幸せだった。だからこそ、どんなことがあっても、薫を失いたくない。薫を守りたい。そばにいたい。
自らを削ってでも薫を支えるヨシキさん演じる浩介の姿と言葉と声から、薫を必死につなぎ止めようとするのを感じ、それでも浩介のことを忘れ、浩介の苦しみなぞ一切伝わっていないあみたさん演じる薫の幼くなった声を聞き、浩介が追い詰められていく姿を見ていて、私の心に深く刺さり、抉られ、思わず浩介の両肩を掴んで「もういいよ!!」と言ってしまいたくなるほど、辛かった。
それでも、これだけ尽くしてきたのに、薫は浩介の前から姿を消してしまった。
ここまでの浩介の努力は水の泡となるものの、ここで浩介は薫を諦めるという選択肢を選ぶことが、もしかしたら、「普通の幸せ」を得るには1番の近道だったのではないかと思った。
その後、
「どうしていなくなったんだ!!」
と、誰に当たるわけでもなく、ただ自分の気持ちを爆発させて、怒鳴る。からの、
「ひとりにしないでくれ……薫……」
であった。
この「ひとりにしないで」という言葉で、浩介の心の奥底に触れた気がして、ここまできてようやく浩介の理解ができた気がした。家族もいる、昔の恋人もいる薫からしたら、自分を愛してくれる人はいるということを知っていたから、「私を忘れて」と言えた。しかし、家族はいない、序盤でデートでどうしたらいいか分からなかったことから恋愛経験がなかったことが分かる浩介にとって、自分を愛してくれる人は、薫しかいなかったのだ。
必死に薫を支える浩介はとても強かった。口ぶりから限界まで来ていたのは分かったが、無理やり自分を言い聞かせ、絶対に薫を怒鳴ることはなかった。手を上げることもなかった。
それでも薫がいなくなってから、張っていたものが消えて、ようやく浩介の本音が見えた。
この浩介は、1人の人間を守ってきた男にしては、あまりに弱々しかった。
10歳の頃、母親に祭りで捨てられてしまったシーンを思い出すほど、幼かった。
それでも、私には心の悲痛な叫びとして聞こえて、涙を流さずにはいられなかった。
この一言で、私はさらに昔の記憶が引きずり出された。
「寂しい」と思った、幼稚園から今までの数々の記憶だった。
私の昔の感情と、ここの浩介の言葉から伝わる気持ちがリンクしたのだろう。
ここで私は、浩介の孤独に触れたこと、私の昔のことを思い出したことで、2重の意味で泣いてしまった。
私はおそらく、ヨシキさんのお芝居から感じる「孤独」に引き込まれるのだろうと思う。
というのも、このシーンをしばらく考えていた時に、別の朗読劇が突然フラッシュバックした。
こちらもヨシキさんが出演されていた「オペラ座の怪人」だ。
私がこれを見てから、
「今夜の勝利は、2人のものじゃなかったのか……」
というヨシキさん演じる怪人のセリフを1ヶ月は引きずった。
自分が手塩をかけて育て、愛していたクリスティーヌとともに作戦を成功させたはずが、彼女にはラウルという別の男がいたことを知った時のセリフだ。
ここまで圧倒的な存在として君臨していた怪人に、ポロっと人間らしい部分が見え、途端に弱々しく見えたのだ。
自分にはクリスティーヌしかいない。そしてクリスティーヌにとっても自分しかいないと思っていたのに、彼女には別の人物、それも男がいることが分かり、突然孤独がここで浮き彫りになったようだった。
「私の頭の中の消しゴム」も「オペラ座の怪人」も、広義でいうと孤独な人間が愛を知る物語だ。
そんな「孤独な人間」を演じるヨシキさんのお芝居から感じるものが生々しく、時には私の心とリンクし、私の心を締め付け、抉り、苦しめる。それでもその人物、キャラクターをたまらなく愛おしく感じてしまう私もいる。
もしかしたら、私はその両極に心を揺り動かされるせいで、私の心に刻みつけられるのかもしれない。
「私の頭の中の消しゴム」の結末は、果たして浩介は幸せだったのか。
おそらくこれが私の心をモヤモヤさせている最大の要因だと思う。
薫が自分のもとを去った時点で、薫のことは他人に任せ、薫のことを忘れるわけではないけれど、浩介は浩介の人生を歩むことが、やはりお互いにとって幸せだったのではないかと、今も思う。
でもそれは、自分は限りなく浩介に感情移入をしてしまうけれど、おそらく私自身「誰かは私を愛してくれている」ことを知っているから、薫側の人間だから思うことなのだろうとも思う。人間関係を断ち切りながら生きてきた自覚はあるけれど、少なくとも今は母親や兄からは連絡が来るし、頼ってくれて助けてくれる友人も僅かながらいるからだ。
じゃあ浩介はどうか??
……すでに述べている通り、薫しかいないのだ。
薫がいなくなったら、自分を愛してくれる人はいなくなる。
深夜徘徊をする薫のために、寝る時に自らと薫を繋ぐロープを「赤い糸」と表現した瞬間「この紐邪魔!!!」と断ち切られそうになっても、自分の前から姿を消しても、絶対に絶対に絶対に諦めなかった。
これは、もはや「愛」なのだろうか????
自分が死ぬより辛い思いをしても、それでも手放さないのは、愛なのだろうか。
私には、ここまでできる浩介の気持ちが、今は正直理解できない。
できないけれど、本当の意味で人を愛するというのは、もしかしたら、浩介から感じたものの中のどこかにヒントがあるのかもしれない。
自分は「愛」というものを見失いかけていて、正直私は誰かを好きになることは、今はとても怖い。本当の意味で誰かを好きになるということが、もしかしたらこんな年になってもまだ分かっていないのかもしれない。
それでも、いつか「この人となら」と思える人ともし出会えた時、この作品と出会っていたおかげで、「『好き』ってこういうことなんだ」と理解できるのかもしれない。
まあまだ気持ちの整理がし切れていないのも事実で、でもこんな気持ちは1日でどうすることもできないのもそうで、この文章も極力伝わるように頑張ったものの、きっとおかしなところもあって、しっちゃかめっちゃかしているだろう。そもそもいつもはですますで書いているのに、気づいたらであるで書いていたし。
書きたいことはまだまだあるが、それはどこかでは書いていることだし、今日はこの作品と出会わせてくれたこと、これほどまでに考えるきっかけをくれた、ヨシキさんとあみたさんの熱演に感謝し、終わりたい。
公演後1週間ほどアーカイブもあるので、もし気になったらぜひチェックしてほしい。
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170276
中島ヨシキさんという役者さんを好きでいてよかった。出会えてよかった。
と、心の底から思う。
次はどんなお芝居を見せてくれるのだろう。どんな作品と出会わせてくれるのだろう。
直近は来月の朗読"舞"「KANAWA」。
元は実はこっそりヨシキさんに演じてほしいと思っていた演目の1つ。楽しみだ!!