世界の終わりのその先へ。「in bloom」全曲(さらっと)感想
こんにちは。ちるりです。
2020/12/23に発売された、斉藤壮馬さんの2ndフルアルバム『in bloom』。
1stフルアルバム『quantum stranger』、EP『my blue vacation』、そして『エピローグ』で様々な「世界の終わり」をテーマに斉藤壮馬の世界を描いてきましたが、今回はまた違った方向性となりました。
インタビューを読んでいる限り、「エンタメとしてポップでキャッチーでなくては」といったところから、「もう少し自分の好みに寄せてみる」と気持ちの変化もあったようで、バンドサウンドを中心にオルタナティブな雰囲気も強くなり、より深い音楽性になっていると感じています。
いわゆるJ-POPの枠にとらわれない、オルタナティブを軸とした圧倒的音楽センス、現実と虚構が入り混じったようなファンタジックな世界観の構築力、それを支える膨大な語彙、そして歌声の表現力の全てが突き抜けている素晴らしいアルバムです。
端的に言うと、
再生が止まりません。
止まらないので、感想を書かせていただきます。
1【carpool】
アルバムのリードトラックとしてMVも公開されていましたね。
壮馬さんらしくバンドサウンドだけれど、どこか切ないメロディとアレンジは聞いていて気持ち良いです。
それでも、
「さざなみのあいだから きみが呼んでいる」
「水平線の先なんて 知りたくもなかったよ」
「隣の席はいつだって きみだけに空けてあるよ」
「すぐ追いつくから その場所で待ってて」
と、歌詞をよく読むと……。
2【シュレディンガー・ガール】
個人的アルバム最推し曲です。
疾走感のある雰囲気にどこか80'sっぽい雰囲気のギターサウンドが乗っていて、聞いていてとても上がります。
特にBメロのドラムがとってもかっこいいです。
何回再生したかもう分かりません。
歌詞のリズム感の気持ち良いこと。3DアニメーションのようなMVが脳内で勝手に流れます。ショートショートのような終わり方が素晴らしいです。
3【Vampire Weekend】
ここまでの雰囲気から一転して、ダークでR&B調に。
1番の綺麗なリップ音からの「チャカチャーン♪」と入ってくるギターがとてもセクシーで何回聞いても最高です。
壮馬さんの歌い方もとてもセクシーで、引きずり込まれるような魅力がとても素敵です。
アレンジもとても凝っていてじっくり聞きたいので、インストが欲しい曲でもあります。
4【キッチン】
再び雰囲気が一転。日が差し込む昼下がりのような、緩やかでふわふわした曲です。
「ああそうだ」とコロコロと意識の先が変わりながら、突然「世界を救うのはたぶん私じゃない」と歌っていたかと思ったら、「ナツメグ入れ過ぎてしまったかも」と戻ってくる、緩やかな曲調に反してトリップしたような、不思議な感覚になります。楽しい。
5【ペトリコール】
雨が降った時に地面から立ち上がってくる独特な香りが「ペトリコール」。
デジタルリリースされた「in bloom」シリーズ1作目として梅雨の時期にリリースされた曲で、よく聞くと曲中ずっと雨の音が鳴っています。
イントロや間奏で鳴っているサックスのメロディが印象的でとてもオシャレ。
音のリズムと歌詞のリズムがばっちりはまっていて、ツーステップでも踏んでみたくなる曲。
「思い通りいかない足取り」
「晴れはまだ来なくていいから どうかこのまま踊らせて」
と、また不思議な世界に閉じ込められたような感覚になります。
最後の子どもたちの歌声は、皆さんどのように感じますか?
6【Summerholic!】
「in bloom」シリーズ2作目。
一見ゴキゲンハッピーサマーソング!ですが、
「夏の精にグッバイ」
「クーラーガンガンのパラダイス」
と、実は引きこもり最高!ソング。
ギュインギュイン鳴ってるギターが最高に楽しいですし、2番の「ポイ!」のノリが最高に好きです。
引きこもってるのに、一体主人公は誰と乾杯しているのでしょうね……。ラジオで壮馬さんからの指摘があった時は震えました。
MVの壮馬さんがあざとかわいい。
7【パレット】
「in bloom」シリーズラストシングル。
「ねぇどうして 君はどうしているの」
「大丈夫、いつかきっと 見つけだすからね」
と、思いよ届けとばかりに歌う壮馬さんの声が心に染みます。
夏の日を思い出すセンチメンタルな気持ちと、この曲の主人公の気持ちが、空へ抜けていくようなバンドサウンドと壮馬さんの歌声に乗って昇華していくようで、聴き応え抜群です。こちらも個人的オススメ。
8【BOOKMARK】
パレットで盛り上がったところで、今度はR&Bな雰囲気に。つい体がゆったりと乗ってしまうような、気持ちの良いノリがとても好きです。
途中の謎の友人"J"と壮馬さんのラップがよりリズムに乗りたくさせます。お酒飲みながらこの曲を流しながら踊ったら絶対楽しい!
9【カナリア】
アコギ1本と壮馬さんの歌声から始まり、チェロ、ピアノ、他の弦の音が入ってくるのがとてもオシャレ。
シンプルなアレンジで、壮馬さんの歌声の魅力が光る曲となっています。
がっつりバンドサウンドがお好きなようではありますが、前作の「quantum stranger」では「レミニセンス -Unplugged-」が収録されていますし、アコースティックな編成も素敵に歌いこなせるのはさすが。
10【いさな】
収録時間が驚異の8分14秒。イントロだけで1分あります。
……ということに、発売後の週末にツイッター上で壮馬さんや、壮馬さんと関わりの深いスタッフの方々たちのアルバム曲へのコメントが出るまで、気づいておりませんでした。
決して派手な曲ではありませんが、とても聞かせる力の強い曲です。穏やかな海の中で浮かんでいるような雰囲気で、壮馬さんの天の声のような神秘的な歌声に、それこそ、いさな(クジラの古語だそうです)が鳴いているような、柔らかいエレキギターの音が不思議な浮遊感を醸し出しています。
曲の長さが2曲分なのはプログレなんかではあったりしますが、まさか声優さんの曲で出くわすことになるとは……。でもこの曲はたしかに、これだけの時間が必要な曲です。
ふわ~っと漂っていたら気づいたら曲が終わる。不思議とずっと聞いていたくなる曲です。
11【最後の花火】
最後にポップだけどどこか切ない、夏の夜の野外ライブでサァっと風が抜けていく中聞きたい曲。
ポップめな曲ですが、メロディの展開が多い…!!楽しい……!!
「いさな」で終わるのもありだったとは思いますが、この曲がいるおかげで、何だか次への期待感もありながらアルバムが終わっていく気がします。
[Secret Track]【逢瀬】
配信では聞くことができない、CDにのみ収録されている曲(壮馬さんのアーティスト公式Twitterにて歌詞が公開されています)。
鉄琴とアコギの音がメインの、昼下がりの柔らかな光の感じと温かさのある曲調ながら、
「こもれびの中でふたり 身を焦がしていく」
「ずっとこのままこの場所で ピアノが弾けたらいいのに」
と、登場人物たちの様子が乗っていて、レースのカーテン越しに様子を見ているような気持ちになります。
ここまで歌詞に関しても触れつつ書いてきましたが、壮馬さんの歌詞の特徴は
「歌詞の中に"斉藤壮馬"がいない」
「1曲がそれぞれ短編小説のよう」
「韻をよく踏んでいて、歌に乗った時のリズム感が絶妙」
ということです。
壮馬さんが伝えたいメッセージではなく、壮馬さんが思い描く世界、物語が曲になっているので、聞いていると脳内でショートフィルムのような映像ができてくるのが本当に楽しいです。
別々のお話を書いているのに、しっかりまとまりがあるのは、全曲作詞作曲が壮馬さんだからなのかなと感じています。
その中で世界観を壊さず韻を踏んで、耳心地が良く、スルッと曲の世界に入り込める力もある言葉選びのセンスは、普段のエッセイからも感じる非常に高い文章力からも納得です。
(実は私はエッセイの面白さに惹かれて壮馬さんの曲を聞き始めた節があるので、エッセイもオススメしています。)
もう少し私に語彙と文章力があれば、もっともっと素敵なものだとお伝えできるのですが、私の力ではこれが精いっぱいのようです。
ぜひ、聞いてみてくださいね。
それでは。